薬剤師以外の者による調剤行為について その1
さて、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言も解除され、世の中は多少落ち着きを取り戻しつつあるようにみえます。とはいえ、事態の収束にはまだまだ時間がかかりそうです。
ウイルス的な意味で事態が収束したとしても、今回の出来事が残した爪痕はあまりに大きく、とりわけ消費税率の引き上げで元々落ち込んでいた経済状況にダブルパンチというか、泣きっ面に蜂というか、適切な財政・経済政策を速やかに実行しなければ、日本の経済ひいては日本という国そのものが詰んでしまいかねない状況になるであろうことは明白です(すでに詰んでいるという意見もあるかもしれませんが)。
第二次補正予算に関する新聞記事などを読んでいる限り、新規国債発行額という意味ではまあまあ頑張っているようなもっと頑張ってほしいような、微妙な感じです。
毎度のことながら政府の打ち出す経済対策は庶民には複雑すぎてわかりにくいので、本当のところはよく理解できていないのですが、感覚的に、政府がもっともっと全力で赤字を拡大して国民を助けに行かないと、取り返しがつかない状況になるのではないかと危惧しています。
これを機に、日本は現状財政赤字が多すぎるのではなく、逆に少なすぎるのであって、政府が赤字を拡大するこによる財政破綻など起こりえないということ、緊縮財政に賛成することは自分自身の首を絞めることにしかならないということを、多くの国民が考えるきっかけになればいいと思っています。
とりあえず、10万円早くほしい。
とまあ、前置きはこれくらいにして、今回は薬剤師以外の者(主に医療事務)による調剤行為について、です。
これに関しては、個別の行為の可否に関する詳細かつ具体的な指示(厚労省からの指示)が少ないということもあり、いわゆる「グレーゾーン」として各薬局経営者の自主的かつ恣意的な判断に基づき、医療事務による調剤行為が横行してきた経緯があります。
実際、僕が大学5年生のころに実務実習でお世話になった薬局では、医療事務による散剤の計量・混合が行われておりました。もう10年近く前の出来事ですので、今どうなっているかはわかりませんが。
さすがに、そこまであからさまなことは少なくなっていると思いたいですが、今でも明文化されていないのを良いことに薬剤師資格を持たない者に比較的簡単な調剤行為をさせている経営者もいるのではないでしょうか。
そのような状況にあって、知らないうちに違法行為の片棒を担ぐようなことになってはたまらんと思ったので、今回の記事を書こうと考えたのです。
先に言っておきますが、以下に書くことはあくまでも僕の個人的な見解ですので、別の意見も当然あり得ると思っています。
調剤行為について
薬剤師法第19条によると、調剤行為は原則として薬剤師の独占業務である旨が示されています。
薬剤師でない者は、販売又は授与の目的で調剤してはならない。ただし、医師若しくは歯科医師が次に掲げる目的において自己の処方せんにより自ら調剤するとき、又は獣医師が自己の処方せんにより自ら調剤するときは、この限りでない。
一 患者又はその看護に当っている者が特にその医師又は歯科医師から薬剤の交付を受けることを希望する旨を申し出た場合
二 医師法(昭和23年法律201号)第22条各号の場合又は歯科医師法(昭和23年法律202号)第21条各号の場合
https://www.gunyaku.or.jp/public/bungyou/yakuzaishiho.html より引用
つまり、原則として調剤は薬剤師以外が行ってはならない行為だということです。医師や歯科医師がいない保険調剤薬局ではなおさらですね。
では、「調剤」とは具体的にどのような行為のことをいうのでしょうか。
ネットで検索をかけたところ、わかりやすくまとまっている文献が出てきましたので、そちらから引用させてもらおうと思います。引用元はこちら↓。
「調剤」とは何か―法的な定義が必要(中川直人) 新しい薬学をめざして 45, 217-220 (2016).
(http://pha.jp/shin-yakugaku/doc/Vol45No9_217-220.pdf)
1917(大正 6)年大審院(現在の最高裁判所)判決は,調剤とは「一定の処方に従いて一種以上の薬品を配合し若しくは一種の薬品を使用し,特定の分量に従い特定の用法に適合する如く,特定の人の特定の疾病に対する薬剤を調製すること」としている。
1974 年 6 月の政府国会答弁は,「処方せんの監査,疑問点の照会,それに対する回答の処置,薬剤の確認,秤量,混合,分割,薬袋薬札のチェック,薬剤の監査,服薬指導」の「一連の行為は調剤の本質的な部分」としている。
堀岡(1993)は,「調剤とは,医師,歯科医師らの処方により,医薬品を使用して特定の患者の特定の疾病に対する薬剤を,特定の使用法に適合するように調製し,患者に交付する業務をいい,薬剤師の職能により,患者に投与する薬剤の品質,有効性及び安全性を確保することをいう」としている。
さらに、今手元にある『調剤指針』(第十四改訂)によると、
「調剤の概念とは、薬剤師が専門性を活かして、診断に基づいて指示された薬物療法を患者に対して個別最適化を行い実施することを言う。また、患者に薬剤を交付した後も、その後の経過の観察や結果の確認を行い、薬物療法の評価と問題を把握し、医師や患者にその内容を伝達することまでを含む。」
とあります。
また、『調剤指針』には調剤の流れに関するもう少し具体的な記述がありますので、簡略化しつつまとめておきます。
- 処方内容が適正であるかを薬学的な観点から監査する。
- 各患者に合わせた調剤設計(混合、一包化、もしくは薬剤の粉砕などの製材加工の検討、患者に提供すべき情報あるいは指導の検討など)に加え、医療経済的な視点も勘案して薬剤を取りそろえる。
- 患者が医薬品を適正に使用できるよう、情報提供および指導を行う。
- 薬剤交付後に服薬状況の確認、有効性の評価、相互作用・副作用の出現有無の確認を行う。
- 得られた情報を今後の治療にフィードバックする。
一方、「かかりつけ薬剤師の本質的業務と機能強化のための調査研究」では、調剤された薬剤の表示、情報の提供及び指導、処方せんへの記入等は、独占業務である「調剤」に伴う薬剤師の義務ではあるが、薬剤の調製に直結した業務ではなく、独占業務である「調剤」に該当するものと断定することはできない、としています。
「調剤」と一口に言っても時代と共にその概念が拡大してきていることや、はっきりと定義することが難しい部分もあることがうかがえます。
では、「調剤」という行為について、上記の引用等と自分の解釈を合わせて以下にまとめておきましょう。
・医師もしくは歯科医師の処方に基づいて行われる行為である。
・原則として薬剤師以外の者が行うことはできない。
・具体的な調剤行為として以下のものが挙げられる(ただし5、6に関しては「調剤」に含まないという判断もあり得る)。
- 処方箋の監査
- 処方内容に疑義が生じた場合医師に照会し、回答を得て対処すること。
- 薬剤を取りそろえること(PTPまたはそれに準ずる包装がなされた状態で数量を取りそろえることに加え、散剤・水剤・軟膏剤の計量・混合、錠剤の分割・粉砕・一包化等を行ったうえでの取りそろえ、薬袋の作成を含む。また、後発医薬品が存在する薬剤に関しては、患者の希望も考慮しつつどの薬剤を選択するか決定する)。
- 取りそろえた薬剤の監査
- 患者への薬剤の交付(処方箋に従って用法・用量を説明すること、薬効・副作用・相互作用等の情報提供をすること、症状・アレルギー歴・他に服用している薬剤の有無等患者背景に関する情報を収集すること等を含む)
- 交付後、服薬状況・有効性・副作用発生の有無等を確認し、必要に応じて医師に情報提供するなど、今後の治療へフィードバックすること。
調剤業務のあり方について
基本的に調剤は薬剤師しか行うことができないということなのですが、最近では例外も認められつつあるということで、代表的なのが次に示す厚生労働省からの通知です。
『調剤業務のあり方について』
(薬生総発0402 第1号 平成3 1 年4月2日 厚生労働省医薬・生活衛生局総務課長)
この通知は簡単に言うと、薬剤師以外の者による調剤行為についての解釈を示したものなのですが、この通知が出された背景として、以下のようなことが書かれています。
『調剤業務のあり方については、平成28 年度厚生労働科学特別研究事業「かかりつけ薬剤師の本質的業務と機能強化のための調査研究」において、「機械の使用や薬剤師の指示により他の従業者に行わせること」について検討が行われていたところであり、当該研究結果も踏まえ、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」(平成30 年12 月25 日)において、薬剤師の行う対人業務を充実させる観点から、医薬品の品質の確保を前提として対物業務の効率化を図る必要があり、「調剤機器や情報技術の活用等も含めた業務効率化のために有効な取組の検討を進めるべき」とされたところです。』
個人的にこの記述からはだいぶ胡散臭いものを感じておりまして、それっぽいこと言ってるけど、結局は少子高齢化に伴って増大する医療的負担を薬剤師にも負わせつつ、医療費削減のために人件費を削りたいってのが本音だろ?と考えているのです。
なので、この通知の内容から、薬剤師以外の者が行ってよい行為の範囲について考えるついでに、関連する文献にも手を伸ばして、この通知が出された背景や、今後『調剤』という行為がどう変わっていくのかということについて考えてみたいと思います。
ですが少し長くなりそうなので一度ここで切ります。
続く
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