薬剤師以外の者による調剤行為について その2

仕事一包化, 医療事務, 薬剤師, 調剤

前回、『調剤』は原則として薬剤師以外の者が行ってはならないことや、『調剤』の定義について確認しました。

そして、厚生労働省から薬剤師以外の者が行う調剤行為に関する解釈についての通知『調剤業務のあり方について』が出されていることに言及しました。

今回は、まずこの通知の詳細を見ていきましょう。

薬剤師以外の者が行ってよい調剤行為

『調剤業務のあり方について』では、まず総論的な記述として次のように書かれています。

調剤に最終的な責任を有する薬剤師の指示に基づき、以下のいずれも満たす業務を薬剤師以外の者が実施することは、差し支えないこと。なお、この場合であっても、調剤した薬剤の最終的な確認は、当該薬剤師が自ら行う必要があること。
・当該薬剤師の目が現実に届く限度の場所で実施されること
・薬剤師の薬学的知見も踏まえ、処方箋に基づいて調剤した薬剤の品質等に影響がなく、結果として調剤した薬剤を服用する患者に危害の及ぶことがないこと
・当該業務を行う者が、判断を加える余地に乏しい機械的な作業であること


もう少しわかりやすく言うと、薬剤師以外の者が調剤を実施する場合、次の条件を満たす必要があるということです。

  1. 薬剤師の指示に基づいて行われなければならない
  2. 調剤した薬剤の最終的確認は薬剤師が行い、調剤の最終的責任は薬剤師が負うものとする
  3. 薬剤師が席を外している間は、薬剤師以外の者による調剤行為は認められない
  4. 当該行為によって薬剤の品質に悪影響が及ぶことがあってはならない
  5. 結果として当該薬剤を服用した患者に危害が及ぶことがあってはならない
  6. 当該作業者が判断を加える余地に乏しい機械的な作業でなくてはならない

個人的に上記の4、5、6(特に4と5)が判断を難しくしているように思いますが、少し考えてみましょう。


前回、具体的な調剤行為として以下の6つを列挙しました。

  • 処方箋の監査
  • 処方内容に疑義が生じた場合医師に照会し、回答を得て対処すること。
  • 薬剤を取りそろえること(PTPまたはそれに準ずる包装がなされた状態で数量を取りそろえることに加え、散剤・水剤・軟膏剤の計量・混合、錠剤の分割・粉砕・一包化等を行ったうえでの取りそろえ、薬袋の作成を含む。また、後発医薬品が存在する薬剤に関しては、患者の希望も考慮しつつどの薬剤を選択するか決定する)。
  • 取りそろえた薬剤の監査
  • 患者への薬剤の交付(処方箋に従って用法・用量を説明すること、薬効・副作用・相互作用等の情報提供をすること、症状・アレルギー歴・他に服用している薬剤の有無等患者背景に関する情報を収集すること等を含む)
  • 交付後、服薬状況・有効性・副作用発生の有無等を確認し、必要に応じて医師に情報提供するなど、今後の治療へフィードバックすること。

ここに列挙された作業のほとんどは、上記の条件6に抵触すると思われます。

判断を加える余地に乏しい機械的な作業と言えるのは、上から3つ目の薬剤の取りそろえ、それもその中のごく一部のみと考えて差し支えないでしょう。

この考えが妥当であることは『調剤業務のあり方について』からも読み取ることができます。この通知では、具体的に2つの業務が薬剤師以外の者が行っても差し支えのないものとして挙げられています。

具体的には、 調剤に最終的な責任を有する 薬剤師の指示に基づき、 当該薬剤師の目が届く場所で薬剤師以外の者が 行う処方箋に記載された医薬品(PTPシート又はこれに準ずるものにより包装された ままの医薬品)の必要量を取り揃える行為、及び当該薬剤師以外の者が 薬剤師による監査の前に行う一包化した薬剤の数量の確認行為については、上記1に該当 する ものであること。

ここでいう「上記1」というのは、最初に引用した総論的条件を満たす業務のことです。

つまり、現状厚生労働省が、薬剤師以外の者が行っても差し支えない業務として具体的に認めているのは、

  1. PTPシート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品の必要量を取りそろえる行為
  2. (薬剤師が)一包化した薬剤の数量を確認する行為

この2つのみということです。



ちなみに、私が勤める薬局では、レセコンに処方入力すると、薬情(薬剤情報提供文書)や、手帳シールとともに作業指示書が出力されます。

薬剤師はこの作業指示書の内容について確認を行い、問題なければ医療事務がピッキング(包装されたままの医薬品の取りそろえ)を行います。また、その際、専用の端末に医薬品の保管場所が表示され、その場所にある医薬品の箱からJANコードを読み込むことにより、物が間違っていないことを確認することができるようになっています。

ここまですれば、薬剤師の指示の下に行われる、判断の余地に乏しい機械的な作業とみなしてよいと考えられますので、通知の趣旨に反することはないと思われます。

また、私が現在所属する薬局では、一包化した薬剤の数量を確認することを医療事務に行わせることはありません。

おそらく、ほとんどの薬局が似たような状況にあるのではないかと推察します。

これまでグレーとされていた、医療事務によるピッキング行為が認められたことは確かに大きなことですが、逆に言うとそれだけのこととも言えます。


通知では、具体的業務内容について、「有識者の意見を聴きつつ更に整理を行い、別途通知することとしていることを申し添えます」と書いていますので、業務内容が今後拡大していく可能性はあります。しかし、繰り返しになりますが、少なくとも現状ではっきりと認められている行為は上記2つのみだということです。

薬剤師以外の者が行ってはいけない調剤行為

『調剤業務のあり方について』では、薬剤師以外の者が行ってはならない行為についても言及しています。もっとも、これについては過去に出された通知を再確認したにすぎませんが。

「薬剤師以外の者による調剤行為事案の発生について」(平成 27 年6月 25日付薬食総発 0625 第1号厚生労働省医薬食品局総務課長通知)に基づき 、薬剤師以外の者が軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、引き続き、 薬剤師法第19条に違反すること。ただし、このことは、調剤機器を積極的に活用した業務の実施を妨げる趣旨ではない。

軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、薬剤師以外の者が行ってはならない、というわけですね。

これについては、『調剤業務のあり方について』の根拠の一部ともなっている、『かかりつけ薬剤師の本質的業務と機能強化のための調査研究』に次のような記述があります。

これらの行為について、計量・混合調製後の薬剤は、調製前の状態も含め、もはや何かを判断することはできず、誤った調製であれば、その結果患者に危害を及ぼすおそれがあることから、上述した①と②に反する行為として、機器や薬剤師以外の者に行わせることはできない行為であるといえる。

ここでいう上記①と②というのは、①当該薬剤師の目が現実に届く限度の場所で実施されること、②薬剤師の薬学的知見も踏まえ、処方箋に基づいて調剤した薬剤の品質等に影響がなく、結果として調剤した薬剤を服用する患者に危害の及ぶことがないこと、という先に述べた総論的条件のうち2つを指します。

つまり、軟膏剤、水剤、散剤は調製が終了した状態では、何をどれくらい計量して、どのように混合したのか、混合前の状態はどうであったかということの判断が困難であるため、薬剤師の目が届いているとは言えず、薬剤師の手を介さずに行われることは患者に危害の及ぶリスクが高すぎるということだと思われます。

さらにこれは個人的見解ですが、これらの調製には、容器・包装から取り出した薬剤を直接取り扱う必要がありますので、その時点で条件4(当該行為によって薬剤の品質に悪影響が及ぶことがあってはならない)に抵触する恐れがあると考えられます。

これは、厚労省が認める行為の一つが、「PTPシート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品の必要量を取りそろえる行為」であることからも推し量ることができます。

ここで一つだけ引っかかるのは、この調査研究の記述では機器による調製も否定されているところでしょうか。『調剤業務のあり方について』では、機器の活用は否定されていませんし、これらの薬剤を調製するための全自動機器がどんどん登場してきていますので、薬剤師がきちんと機器を扱えるのであればそこはOKというのが個人的見解ですね。

判断が難しい行為について

先述した通り、前回列挙した6つの調剤行為のうちほとんどは条件の6(当該作業者が判断を加える余地に乏しい機械的な作業でなくてはならない)に抵触するものとして、薬剤師以外の者が行ってはならない行為と判断しました。

また、薬剤の取りそろえ行為については、『調剤業務のあり方について』によって、「PTPシート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品の必要量を取りそろえる行為」は認められますが、「軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為」は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、薬剤師以外の者が行うことは認められないということを確認しました。

では、それ以外の行為、具体的には、錠剤の分割・粉砕・一包化についてはどうでしょうか。

先に個人的結論を言ってしまうと、先述したように、容器・包装から取り出した薬剤を直接取り扱う必要があるという点で、分割・粉砕・一包化はすべてアウトだと考えます。

まあ念のため一つずつ見ていきましょう。

錠剤の分割

まず錠剤の分割ですが、これはまず分割して差し支えない薬剤かどうかの判断が必要です。また、錠剤によってハサミを使うか、スパーテルの裏を使って割るか、半錠カッターを使うかという判断も生じるでしょう。また、分割後の均等性についての判断も必要となるため、上記条件の4、5、6に抵触する恐れがあります。

ただし、事前に薬剤師が分割の可否を判断し、どのような方法で分割するかを指示し、分割後の均等性についても薬剤師の最終的な監査により確認できるという状況下においてであれば、薬剤師以外の者が行うことが認められるケースもあるかもしれません。

しかし、分割した錠剤の刻印は判読が難しいケースもあり、薬剤師の監査に漏れが出る可能性も否定できないため、調製からして薬剤師が行うに越したことはない行為であると考えます。

錠剤の粉砕

次に錠剤の粉砕ですが、これは通常、粉砕前後の重量を計量することが多いと思いますので、散剤の計量、混合と同等以上の行為として、考えるまでもなく却下されるものと考えます。

薬剤師が粉砕機に錠剤をセットし終えた後に、スイッチを入れるくらいのことならば可能でしょうかね。

錠剤の一包化

最後に一包化についてです。本当かどうかは知りませんが、一部の大手調剤薬局チェーンでは、既に医療事務による一包化を行わせているという噂を聞きました。

繰り返しになりますが、厚労省は「PTPシート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品の必要量を取りそろえる行為」については認めています。つまり、PTPシートから錠剤を取り出す行為は暗に否定していると考えるべきです。

さらに言うなら、『調剤業務のあり方について』の中で認められている行為の2つ目でも、「一包化した薬剤の数量の確認行為」と、わざわざ数量を確認する行為に限定した書き方をしていることからも、薬剤師以外の者による一包化について厚労省は否定的であると推察できます。

そもそも一包化可能な薬剤かどうかという判断は当然必要ですし、印字をどうするかという判断もあるでしょう。

確かに、一包化では計量も混合もないし、PTPから取り出す程度のことで品質に影響を及ぼす可能性は低いでしょうし、薬剤師による適切な指示と確実な監査が実施されれば、一包化自体は判断を加える余地に乏しい機械的な作業であると考えられる可能性もあります。

しかし、分割の所でも述べましたが、薬剤師の監査は100%確実なものではありません。

若干言い訳がましくなりますが、どれほど単純な処方の監査であっても、人間である以上見落としや勘違いによる過誤は生じえます。錠剤の刻印や色、形状から監査を行わなくてはならない一包化薬であればなおさらです。

また、一包化のケアレスミス(夕食後のところにセットすべき薬剤を朝食後のところに入れてしまうとか)など、薬剤師であっても日常茶飯事的にやってしまうことです。

さらに、分包機の不調により、数錠だけきちんと落ちずに機械の中にキープされてしまうこともあるでしょう。気づかずにキープされていた薬剤が何かの拍子にコンタミしてくることもあるかもしれません。

そういった様々な状況を想像してみると、分割と同じく、作業中はできるだけ薬剤師の目に触れ、薬剤師の手を介していることが望ましいと考えられます。

というわけで、一包化も薬剤師以外の者が行ってはならない業務であるというのが個人的結論です。


要するに、これらの行為は無理矢理、恣意的に解釈すれば、グレーゾーンだと言い張ることができるかもしれないが、患者に危害が及ぶリスクが高く、厚労省の立場からすれば、簡単に認めることなどできるわけがないということだと思います。

と言いますか、グレーなことはやめようよってことですね。

ついでにいうと、いちいち薬剤師が指示しなければならないという点で、それほど効率的とも思えません。

最終的な責任は薬剤師にあるとか言われたら、監査する時無駄に緊張してむしろ効率が悪くなりそうです。

結論

ここまでのことをまとめます。

調剤行為の中で薬剤師以外の者が行ってよいと断言できるのは厚労省が認めた二つだけである。

その二つとは、① PTPシート又はこれに準ずるものにより包装されたままの医薬品の必要量を取りそろえる行為、② 一包化された薬剤の数量を確認する行為である。

軟膏剤、水剤、散剤等の医薬品を直接計量、混合する行為は、たとえ薬剤師による途中の確認行為があったとしても、薬剤師以外の者が行ってはならないと明文化されている。

明文化されていないその他の行為については、無理矢理、恣意的にグレーゾーンであると判断することは可能かもしれないが、グレーであることには変わりなく、実行する場合、当該薬局を所管する保健所・自治体、あるいは厚生労働省のお墨付きを得てからするのが妥当であると考えられる。

しかし、現状では保健所・自治体の職員が積極的にお墨付きを出すことは考えにくいであろう。

ということです。


ここまで書いてきて、とりあえず自分の中での考えはまとまりつつあります。

とりあえず今回はここで切りますが、せっかくですので、調剤行為の取り扱いが今後どうなっていくのかということについても書いてみたいと思います。





もう少しだけ続く(多分)