薬剤師で公務員という働き方について
僕は現在仕事をしてないのですが、薬剤師の免許を持っています。
少し前までは免許を活用して仕事をしていました。
その仕事は某県の職員、つまり公務員(地方公務員)です。
薬剤師として公務員の職を選ぶ人というのはどちらかというと少数派だろうと思います。
薬剤師の職場として一般的にイメージされやすいのは薬局や病院でしょうし、実際このどちらかで仕事をする人は多いでしょう。
他にも、ドラッグストアや、企業で研究・開発に関わる仕事なんかも薬剤師の仕事としてはメジャーな方ではないかと思います。最近はドラッグストアに併設された薬局も多いですしね。
薬剤師の仕事の幅というのは思いのほか広くて、他にも例えば、学校薬剤師、卸売販売会社での薬剤管理業務、スポーツファーマシストなんかもありますし、一口に企業といっても医薬品メーカー、化粧品メーカー、食品メーカーなど多種多様です。
大学に残って研究者の道に進む人もいるでしょう。
そんな数多くの選択肢の一つとして公務員があります。
今日は薬剤師が公務員になるとどんな仕事をすることになるのか、働いてみて実際どうだったのかということを自分の経験からわかる範囲で書こうと思います。
公務員(薬剤師)の職場と仕事内容
先に断っておきますが、ここでいう公務員とは地方公務員のことです。
国家公務員は経験したことがないですからね。
僕が知っている限りでは、国家公務員になると、麻薬取締官や自衛隊における薬剤官、刑務所での調剤などが選択肢としてあるようですが、詳しいことはまったくわかりません。
それと、地方公務員の仕事というのは、自治体によって、あるいは同じ自治体でも職場によって少しずつ異なるものだと思いますので、これから書くことはあくまでも僕自身の経験によるものだということをご了承ください。
保健所勤務
僕が一番長く仕事をしていたのが保健所です。保健所は各県でエリアごとに設置されているので、複数ある保健所のうちどこに配属されるかは上からのお達し次第です。基本的には住んでる場所を考慮してくれるものですが、場合によっては通勤に県の端から端まで移動しなくてはならないこともあります。
試験・検査業務
僕が最初に経験したのが保健所における試験・検査業務でした。
大きく分けると水質検査と食品検査ですね。
水質検査では、管内にある井戸水の検査依頼が来たら決められた項目を検査します。
また、地域のいわゆる「名水」の水質検査をすることもありました。
食品検査では、別の部署が管内の食品関係事業所から検査のためにもらってきた食品について、添加物が基準値を超えていないかどうかなどを検査します。
検査は大雑把に分けて細菌学的な検査と理化学的な検査に分かれますが、僕が担当していたのは理化学の方です。
細菌検査は臨床検査技師のなわばりだったのです。
検査は特に難しい手技を必要とするものではなく、機械の使い方さえ覚えれば困ることはありませんでした。原子吸光光度計やイオンクロマトグラフ、HPLCの使い方に習熟していればさらに仕事はやりやすかったと思いますが、僕はそれらの分析機器を学生時代にあまり触ったことがなかったので、仕事をしながら覚えました。
食品を検査に供するためにまな板と包丁で細かく刻むのが結構面倒でしたね。
特に脂分の多い食品はべたべたして大変でした。
検査の結果、基準を超える添加物が検出された場合には、食品をとってきた部署が事業所に指導を行うことになります。そして再検査ですね。
あと、自分たちの検査手技に問題がないかどうかを確認する精度管理というのもあって、あらかじめ特定の濃度に準備された検体を検査して、大きく外れた結果が出ないかどうかを見ます。ここがちゃんとしてないと全部の仕事が崩壊しますから中々緊張します。
はっきり言ってしまいますが、ここでの業務は大変なことは特にありませんでした。
物理的な仕事量がそれほど多くなかったからだと思います。
検体が来た日はそれなりに忙しいですが、そう毎日来るものでもなかったですから。
各種衛生行政業務
薬剤師として保健所に行くのであれば、検査よりはこちらがメインのような気がします。
大きく分けると薬事衛生、食品衛生、環境衛生の3つがあります。
保健所によっては1つの課で全部担当することもありますし、別々の課に分かれていることもありました。僕は一応全部経験しました。
大雑把に言ってしまうと、ここで行う仕事は各事業所に営業許可を与える仕事、各事業所の営業実態が衛生的に問題ないかどうか監視・指導する仕事、万が一食中毒などの事件が発生した場合の対処となります。
とまあ、言うのは簡単ですが、実際は中々大変です。地域によって差があるとは思いますが、事業所の数が多ければ多いほど仕事量は増えます。
薬事衛生なら薬局、ドラッグストア等の店舗販売業、高度管理医療機器販売(貸与)業、卸売販売業、毒物劇物販売業等が都道府県が許可を出す対象となります(他にもあります)。
食品衛生なら普通にそこら辺にある飲食店は全部許可の対象ですね。
普通のレストラン以外にも各種食品の製造業者も対象です。
この食品関係の事業所数がアホほど多いので、許可を出すだけでも中々大変でした。
カップ飲料の自販機に許可が必要だなんて知ってました?
環境衛生なら理容・美容院、旅館業、クリーニング、温泉・公衆浴場などが許可の対象。
また、許可は一定年数で更新が必要となりますので、一度出したら終わりというわけではありません。
さらに、各事業所の営業者は、申請事項に変更があると保健所に届けなければならないことになっているので、毎日何らかの申請は来ます。
そして許可を出す際、また更新の際には当然のことながら現地で施設要件と人的要件を満たしていることを確認します。遠くのお店なら行くだけで一苦労です。
この許可関係の業務だけでもかなりの量でして、油断すると処理しなくてはならない書類が山のように積み上がっていきます。
さらに大変なのが監視・指導業務です。
特に食品関係に多いのですが、許可を要しない事業というのもあって、それらも全て監視の対象となります。例えば、イベントの出店とか、一部の給食事業とかが該当します。
各事業所にお邪魔したときに大変な仕事の一つが書類の確認です。
最近の衛生行政は、営業者に対してことあるごとに記録を取ることを求めています。
(最近に限ったことでもないとは思いますが)
薬局なら、麻薬、覚せい剤原料、向精神薬、毒薬は調剤ごとに使用量・在庫量を記録とか、
ドラッグストアで要指導医薬品とか一類医薬品を販売したときの記録とか、
食品関係なら従業員の健康管理記録とか、調理時の温度記録とか、
温泉なら残留塩素濃度の記録とか、とか、とか、とか。
これもそれもあれもどれもって感じですね。
食品関係はHACCPが義務化されるのでなおさらですね。
記録の必要量が多い業種・事業所だと、その記録を取ることを求めているこっちですらちょっと引くほどの量になります。
記録取るほうも大変だけど、確認するほうも大変です。
監視に行くと、それらの膨大な記録に目を通して、営業実態に問題がないかどうかを確認するわけです。
問題がありそうなら改善してもらえるように話をします。
素直に聞いてくれる場合もあれば、逆切れされる場合もあります。聞いたふりして何も改善されない場合もあります。
本当はすべての事業所で改善されたことを確認するところまでできれば良いのですが、些細なことなら口頭で一度指示するだけで済ませてしまっていました。
どうしても改善してほしい時やあまりに悪質だと判断した時は書面で指導したり、始末書を取ったりします。
そしてある意味で最も大変なのが事件対応です。
食中毒なんかが発生すると、休日でもおかまいなしに召集されます。
他の仕事は脇に置いて、全力で対応に当たることになります。
被害の拡大を防ぐ意味でも、原因を究明する意味でも時間との勝負になります。
原因だと思われる店に事情を聴きに行き、患者やその家族にも事情を聴きに行き、関係者の検便検査を行い、関係者が食べた食品を全てリストアップして、検便結果や発症までの時間から原因菌・ウイルスを特定し、当該の店が原因だと確定したら数日間営業停止などの処分となります。
場合によっては人命に関わる事態になることもあるため、気は抜けません。
ここまでに書いたことは本当に大雑把なことなので、細かく言うとまだまだやることはあります。
薬物乱用防止に関する仕事なんかもやりました。
あと人前でしゃべる機会が多くなります。
管内の小・中学校に薬物乱用防止の講義をしに行ったり、各事業者に対して食品衛生の講義をする機会もありました。
基本的にここでは仕事が無くなるということはなかったですね。
目の前の仕事を必死で切り崩しているうちにいつの間にか一日が終わってる、という感じでした。
感染症関連
薬剤師が保健所で関わる可能性のある仕事として、感染症関連業務というのもあります。
僕はやったことがありませんが、インフルエンザの流行期や、鳥インフルエンザが騒がれた時期などは特に忙しく仕事をされているようでした。
具体的な仕事内容はよくわかりません。
県庁勤務
僕は県庁勤務になったことはありません。
できることなら県庁には行きたくないという意思表示を常々していました。
一度くらい県庁に行って、公務員としての薬剤師の仕事を俯瞰的に勉強してみたいという気持ちはあったのですが、それ以上に、はたから見ていて業務量が多すぎるように思えたのです。
一人当たりの業務量と責任が重すぎるように見えたのです。
自分はそこに行ったらなんだかんだで一生懸命仕事をしてしまって、無理をしてしまって、最後には精神的に病むのではないかと。それが怖かったのです。
結局一度も県庁に行くことなく退職したわけですが、やっぱりちょっともったいなかったかな、とも思う今日この頃。
ですので県庁で具体的にどういう仕事をするのかはよくわかりません。
ただ、保健所での業務は基本的には県庁からの指示で行います。
薬事衛生を所管する課や、食品衛生を所管する課、環境衛生を所管する課、感染症等を所管する課というのが県庁にあって、それぞれの仕事の担当者から保健所の担当者に向けて、この仕事はこれこれこのように〇〇日までにやりなさいよ、という具合に指示が来るのでそれに従って仕事をします。
だから、県庁勤務の職員は県内の全ての保健所と密に連絡を取り合いながら、指示を出したり、質問に答えたりします。
保健所で仕事をしていると、現場の判断ではどうして良いのかわからないことや、法の解釈を巡って意見が割れることが度々起こります。
そういう時は県庁の各所管課に判断を投げます。
現場の担当者が自己判断で仕事を進めたら、担当者が変わる度に支離滅裂なことになるからです。
もちろん、保健所と直接関わらない仕事もあるでしょう。というか、そういう仕事の方がずっと多いのではないかと思います。
国(厚生労働省)とのやり取りもあるでしょうし。
最近はあまり言われなくなりましたが、公務員に対する風当たりがすごく強い時期がありました。
大した仕事もしてないくせに手厚く守られてけしからん!といった具合に。
確かに、公務員にも顧みるべき点は多くあると思いますし、職場によってはそれほどの仕事量ではないということもあるでしょう。
ですが、少なくとも県庁で働く多くの薬剤師に関しては楽して高給ということはないと思います。
(残業しすぎて給料が倍になったとかは聞いたことありますけどね)
やりがいはあるけど、それなりの覚悟も必要。そういう職場なのだと想像しています。
研究機関勤務
これも短期間ですが経験しました。
僕のいた県には、県所属の研究機関がいくつかありまして、そこで検査・研究業務に携わっていました。
その研究所には、大きく分けて細菌・ウイルス等の感染症に関する検査・研究を担当する課と、それ以外の課がありました。僕が所属したのはそれ以外の方です。
職員は基本的に何かしらの研究テーマを持ち、検査の検体が来ないときは研究に励んでいました。
細菌・ウイルス担当の課では、食中毒事件が起きた際などに、保健所の職員が回収した検体(患者の検便とか)で、保健所では検査できないものを検査したりしていました。レジオネラの検査とか、インフルエンザの検査とかもここでしてましたね。
他には感染症発生動向に関する情報発信も重要な仕事の一つのようでした。
あと当然感染症関連の研究も。
それ以外担当の課では、理化学検査で保健所ではできないもの、とかですね。
そしてそれらに関する研究。
研究したら当然学会発表や論文発表もします。
僕が具体的に何の検査や研究をしていたかについて書いちゃうと、どこの自治体か丸わかりになってしまうので差し控えます。
ただ、一つだけはっきり言ってしまうと、ここにいた時がぶっちぎりで楽でした。
検査の検体はそれほど数が多くなかったし、研究も定期的に論文発表しないと給料もらえないというわけでもなかったですからね。
あんまり楽なんで、絶対必要というわけでもないのに論文を書いてしまったほどでした。
楽なのは好きですが、ああいうのは精神衛生上あまりよろしくないと思います。
長く居ると他所で働けなくなる感じというかなんというか。
県立病院勤務
ある意味薬剤師としては一番まっとうな職場。
けど僕はここには最初からあまり興味がありませんでした。
せっかく薬剤師になったんだから調剤経験も積んでおきたいという思いもなくはなかったですが、それなら別に県立病院である必要性もないしな、という感じ。
そんなわけでここも経験していません。
小休止
長い上にとりとめのない文章になってしまいましたが、薬剤師で地方公務員になるとこんな仕事があるよ!ということを書いてみました。非常に多岐に渡る仕事であることがわかると思います。
次回は公務員として働いてみて思ったことなんかをつらつらと書いてみたいと思います。
続く
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